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東京高等裁判所 平成11年(ネ)3681号 判決 2000年11月30日

控訴人 マンション管理組合連絡協議会

右代表者会長 塘直樹

右訴訟代理人弁護士 赤坂裕彦

同 佐藤康則

同 富永紳

被控訴人 A野太郎

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文同旨

二  被控訴人

控訴棄却

第二事案の概要

本件は、控訴人の会員である被控訴人が、控訴人は権利能力なき社団であり、民法の法人に関する規定の準用により、被控訴人は、控訴人に対し、控訴人の平成一〇年七月三一日現在の会員名簿に当たる「会員一覧表」(以下「本件会員一覧表」という。)及び平成五年から同一〇年までの各年度(毎年八月一日から翌年七月三一日まで)における「決算書」、「収入・支出の内訳簿」、平成五年八月から本件口頭弁論終結時までの「会費入金状況一覧表」、「現金出納簿」、「領収書」、「預金通帳」(以下合わせて「本件会計関係書類等」という。)を閲覧謄写させることを求めることができる旨を主張して、右閲覧謄写を求めている事案である。原審は、控訴人が権利能力なき社団であることを認めたうえ、民法の法人に関する規定を類推適用すべきであるとして、被控訴人の本件請求を全部認容したため、控訴人がこれを不服として控訴した。

当事者間に争いのない事実、争点及びこれについての当事者双方の主張は、当審における主張を次のとおり付加するほかは、原判決書三頁八行目から同九頁一一行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

1  控訴人

控訴人は、全会員の五分の一以上の会員から、平成五年度役員の解任及び新役員の選任を議題とする臨時総会開催の請求を受け、平成一二年五月一日臨時総会を開催し、右総会において平成五年度役員が解任され、新役員が選任された。そして、引き続き開催された運営委員会において、平成五年度から同一〇年度までの決算報告を議案として臨時総会を開催し、同総会において決算報告書についてその承認を付議することが承認されたため、控訴人代表者は平成一二年五月八日にこれを議題とする臨時総会を開催し、右総会において平成五年度から同一〇年度までの決算報告書が承認された。

被控訴人は、右のいずれの臨時総会についても、控訴人から招集通知の送付を受けながらこれに出席せず、控訴人の会員としての権利を自ら放棄したものであり、被控訴人の本訴請求は団体の私的自治の範囲を著しく逸脱する不当なものであって、到底認められるべきものではない。

2  被控訴人

控訴人が主張する臨時総会は、民法五一条の規定等に照らして、いずれも無効であるというべきであり、被控訴人がこれを欠席したからといって、控訴人の会員としての権利を自ら放棄したことになるわけではない。特に、平成一二年五月一日の臨時総会については、被控訴人は、右総会の開催に先立ち、右総会の開催の有効性に関する質問状を控訴人に対し送付している。

第三当裁判所の判断

一  争点1について

当裁判所も、控訴人は権利能力なき社団としての要件を満たしているものと判断する。その理由は、原判決書一〇頁一行目から同頁一〇行目までの説示と同旨であるから、これを引用する。

二  争点2について

1  被控訴人は、控訴人は公益的な目的を有する権利能力なき社団であるから必要に応じて民法の公益法人の規定を類推適用すべきであるとしたうえ、同法五一条は公益法人に財産目録と社員名簿を常に事務所に備え置くことを要求しているのであるから、控訴人にはこれらを備え置く法的義務があるのであり、同法がこれらを備え置く法的義務があることを規定したのは、会員がこれらを閲覧できるようにするためであるから、被控訴人は本件会員一覧表及び本件会計関係書類等を閲覧謄写する権利を有すると解すべきであると主張する。

しかしながら、民法は、法人の設立に主務官庁の許可を必要とし(同法三四条)、法人の業務が設立許可を与えた主務官庁の監督に服し(同法六七条一項)、主務官庁はいつでも職権で法人の業務や財産の状況を検査することができる(同法六七条三項)としているのであり、同法五一条は、右の各規定の定めを実効あらしめるために、主務官庁はいつでも法人の構成員や財産を把握できるようにする趣旨で定められたものであると解するのが相当であり、そのために、主務官庁は、同法六七条三項に規定された検査権限に基づいてこれらを閲覧謄写することができると解されるものの、第三者や法人の構成員にこれらを閲覧謄写する権限があるとの規定は設けられていないのであって、したがって、第三者や法人の構成員にこれらを閲覧謄写する権限を認めるか否かは、専ら当該法人の自治に任されているものと解するのが相当である。

ところで、控訴人は、主務官庁の許可を得て設立された民法上の法人ではなく、したがって主務官庁の監督に服するものではないから、民法五一条に基づき財産目録及び社員名簿を常に事務所に備え置くべき義務を負っているものではなく、また、同条の趣旨は右のとおりであるから、直ちに同条を控訴人の場合に類推適用すべきであるということはできないところ、控訴人は、権利能力を有しないとはいえ、団体としての主要な点を確定する会則を有する組織体であり、構成員の変更があっても団体そのものは存在するという社団としての性質を有するものと認められること前記のとおりであるから、民法上の法人について右に説示したところと同様、団体における会計処理のあり方やそれに対する審査の方法、さらにはこれに対する構成員の関与の仕方は、団体の規約によって自主的に決められるべきものであり、それが法令に違反するとか、公序良俗に違反するとかというものでない限り、尊重されるべきものである。

2  そこで検討するに、《証拠省略》によれば、控訴人には根本規約というべき「マンション管理組合連絡協議会会則」があり、同会則においては、執行機関として運営委員会が置かれ(一〇条一号)、同委員会の中に設置された総務部が控訴人の会計を司るものとし(同条二号)、組合会員及び個人会員をもって構成される総会で運営委員若干名と会計監査二名を選出し(八、九、一一条)、総会で決算の承認及び予算の決定を討議する(一一条)ことが規定されていることが認められるものの、会員名簿や会計関係書類の開示や閲覧に関する規定は何ら設けられていない。右会則の内容によると、控訴人においては、会員に決算の審議承認権を認めてはいるが、会員が会計処理が適正になされたか否かを審理する方法としては、会計報告書の内容を検討し、総会において役員に疑問点を質問して、それに対する説明を求めるというような方法を採用し、会員名簿や会計関係書類の開示や閲覧を認め、役員に対する責任追及を個々の会員が直接に行うという方法は採用していない。また、右会則によれば、控訴人は、①分譲マンションの管理組合、②分譲マンションの区分所有者、③会の活動に賛同する団体及び個人を会員として、これらの者が建物、共有敷地、敷地の維持管理、生活環境の改善のため、自主的に組織運営し、住みよいマンションにすることを目的とし(二条)、右の目的を達成するために、マンションの管理、修繕等の方法に関する調査、研究、分譲業者・建設業者・管理業者・業者団体・建設省等、関係機関に対する交渉、会員相互の情報交換、広報活動、この会の目的達成に必要な関係諸団体と協力すること、その他、目的達成のために必要な諸活動を行うこととし、自主的な民主団体として、会員の独自活動を尊重し、これを侵さない、特定の政党・宗教・利益団体等の支配制約を受けることなく、自主的な立場においてのみ連絡協調をはかるという原則に従って活動することとし(四条)、会員が納入すべき会費については、入会金は一〇〇〇円、年会費は前記①の組合会員が一万円+戸数割、同②の個人会員が六〇〇〇円、同③の賛助会員が二万円(六条)と定めている。そして、控訴人には、会務に専従の役員(運営委員)はおらず、会長一名だけが半専従であるにすぎず(甲八)、役員は無報酬である(甲八には平成四年度に年間支出欄の「人件費」の費目に、予算七二万円、決算一二五万四〇〇〇円、平成五年度の同予算欄に七二万円の記載があるが、これが役員の報酬であることについては証拠がない。)。控訴人の会則では会員が役員の責任を直接追及することは認められておらず、総会において決算や予算の内容を承認するかどうかの判断ができるに止まるものである。これらの事情に照らして考えても、右会則が会員に会員名簿や会計関係書類の開示や閲覧を認めていないことが、不合理であるとか公序良俗に違反するものであるとかということはできない。

そうすると、右に述べたとおり控訴人の会則には、会員が控訴人に対し、会員一覧表や会計関係書類等の閲覧謄写を求めることを認める規定の定めがない以上、本件において、被控訴人は、控訴人に対し、本件会員一覧表及び本件会計関係書類等の閲覧及び謄写を請求することはできないものといわなければならない。

3  なお、被控訴人は、控訴人の総会が平成五年一一月二七日を最後に開かれていなかったことを指摘して、控訴人の会則には臨時総会に関する規定がないので、民法六一条二項を準用して会員の五分の一以上の請求により臨時総会の招集を求めることになるところ、そのためには本件会員一覧表及び本件会計関係書類等の閲覧謄写が必要であり、このような場合には、右各書類の閲覧謄写請求権が認められるべきである旨主張する。しかし、控訴人は平成五年一一月二七日以来長らく総会を開催していなかったことは弁論の全趣旨により明らかであるが、控訴人は、平成一二年五月に臨時総会を開催したことが認められる。したがって、控訴人の総会が開かれていないことを理由として、右各書類の閲覧謄写が必要であるということはできず、被控訴人の右主張は採用することができない。

この点につき、被控訴人は、平成一二年五月一日に開催された臨時総会については、開催日が最も出席しにくいゴールデンウィークの真っ最中であったことを理由として、また、同年五月八日に開催された臨時総会については、平成五年度から同一〇年度までの六期分の決算書の承認を一度にするというのは、各年度毎に事業報告及び決算承認を総会に諮るべきであると規定する民法五一条に違反していることを理由として、いずれも無効である旨主張するが、右指摘の各事情はこれをもって右各総会の無効原因とすべきものであるということはできず、ほかにこれを無効とすべき事由を認めるに足りる証拠はなく、臨時総会を無効とする被控訴人の右主張は採用することができない。

三  結論

したがって、被控訴人の本件請求は理由がなく、これをいずれも棄却すべきものであるから、これと結論を異にする原判決は相当でない。よって、原判決を取り消したうえ、被控訴人の本件請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川英明 裁判官 近藤壽邦 川口代志子)

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